★ 夜光性歌劇 ★ 6
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6. 「ここの星のむすめは偽者だったんだ。きっと本物は別のところにいるんだろうよ。」 フォルテにそう慰められて、キノはともかく小屋を出ることにしました。すぐに家へ帰ろうという気は起こりませんでしたから、線路沿いの道をさらに街の外に向かって歩き始めることにしました。今度はキノの後ろにフォルテがついてゆきます。
「とおく、点く星の音、 どこからかあの子守歌が聞こえてきました。星は静かに街へとその影を落としています。こんな夜に子供たちの見る夢は、光と闇とが交じりあって紡がれました。子供たちは、幸せそうに眠っていたかと思うと、突然怖くなって飛び起きたり、泣き出したりしましたが、いつだって大きな優しさに守られているため、再び安心して眠りにつくことができました。そのことを思うとき、キノの胸の星のむすめは、淡い光を放ってキノの心を支えるようでしたが、同時にまた、チクリと胸を痛ませるのでした。 街の南にある小高い丘からは、星が一杯に見えました。不思議なことに、いつもの倍どころかそれ以上の星が見えるようで、夜空はもうほとんど真っ白になっています。星たちが瞬くのと一緒に、キノの目はチカチカとしました。そうして、キノがまばたいた瞬間、星が一つ、夜空から消えてなくなりました。
「今、星が一つ消えたんじゃないか。」 フォルテがそう言った矢先、また一つ、もう一つと星が消えてゆきました。それらは、いつもならまるで見えないような小さな星でしたが、なぜだか今の二人にはその消えてゆく様を見ることが出来るのでした。 その時、ふと何かの気配を感じて振り向いたキノは、自分の側に紺色の作業着を着た点燈夫が立っていることに気が付きました。点燈夫は街燈に灯を点したり消したりするための竿をもっていましたが、こんな街燈一つないところで一体なにをしているのでしょう。見ていると、点燈夫は長い竿を天にかかげ、先に付いた鈎をくるりと回します。するとどうでしょう、それに合わせてまた星が一つ、夜空から消えてなくなるではありませんか。 「君は、私のことが見えるのかい。」 その点燈夫は不意にキノに声をかけました。彼は若いのだか年をとっているのだかよく分からない風貌でしたが、ともかく紳士でした。
「うん、見えるよ。」 そういえば、キノの目がなんだかおかしくなったのは、夕闇の中に一番星を見つけたその時からでした。
「ねぇ、僕の希望は過ちだと言う大人がいるんだ。」 点燈夫はまた鈎をくるりと回しました。星とは一体、こんなにはかなく消えてしまうものだったのでしょうか。
「星を消しているのは貴方なの、」 キノは自分の中で星が生まれ、輝きはじめるのを感じました。光は胸のフィルムを照らし出し、痛みより強い希望が映るのを感じました。キノはもう、ほんとうの星のむすめと一緒に、真白い夜空へと光の船を漕ぎだすことができました。そこにはたくさんの物語がありました。天河の川面をすべるように行くと、たくさんの人が死にました。また、たくさんの人が生まれました。星のむすめの指す行く手には、街の明かりが見えました。キノは、その中にこれから出会わなくてはならないたくさんの人がいることを思いました。 丘の向こうの空が白みはじめました。その頃ようやく、キノは点燈夫がもう側にいないことに気が付きました。 「キノ、どうしたんだ、」 フォルテが尋ねました。フォルテには一部始終が見えてなかったようです。 「いや、何でもないんだよ。帰ろう、フォルテ。」 首を傾げるフォルテをよそに、キノは家路につきました。夜明けの光にかき消される星影とともに、街燈の灯は消えてゆき、街の新しい一日が始まろうとしています。そして、キノの胸に焼き付いたフィルムの中の少女は、昇る朝日よりも強く、キノの心を沸き立たせました。
(おわり) |