森林光年


カラフルだった街が、
つめたいモノトーンに変わってゆく。

カフェテリアのパラソルは消え
看板も歩道も凍りついて
クリスマス気分だけが色を添える
午後三時の商店街、
まだ人の喧噪はなく
風が吹けばツリーのベルの音が
どこからか降るように聞こえてくる

コォン、
コロン、
コォン・・・



第二章. 仙頭 恭子



「美汐、」

突然、大きな声が響いた。

自分の名前に気づいた少女が振り返って声の主を見上げると、頬をふくらませて立つ仙頭恭子の姿があった。
授業終了のチャイムがまだ余韻を残す教室、次のホームルームが終わればもう放課後という開放的な雰囲気のなか、彼女だけが不機嫌そうに見える。

「恭子、どうしたの、」

「ふぅ、それはこっちの台詞よ。何度呼んでも気がつかないんだから」

そう言って、恭子はまたふくれてみせる。たとえではなく本当にふくれているのだから、恭子のような髪の綺麗な少女に似合わない。


天野は授業が終わったことにも気づかず、窓の外を見つめていた。
恭子は天野の隣りの席なのだから、怒るのも無理はない。
ずっと声をかけていたのだ。
答えがないものだから天野の耳元で呼んでみて、
ようやく振り向いたかと思うと、気のない返事。
ごめんなさい、と天野は謝るが
恭子にもたいして怒る気はなく、
むしろこの新しい友人の間の空いたようなテンポが面白いと思っていた。

「ねぇ、外に何か見えるの」

「ここから見ると、街が真白だから。
もしも空からの宝物が落ちてたらすぐに分かるかも知れないと、つい熱心に ・・・」

それはまごうことない本気らしく、天野はなんといってもやはり世界を見る目が違っているのだった。
エキセントリックというか、
恭子は雪景色を見ても寒いぐらいにしか感じないから、
天野の話す白昼夢ともとれそうな世界がどこから生まれてくるものなのか、いつも不思議に思っていた。

天野はまだ話したいことのありそうな顔で、
こんなとき恭子は少し待ってみるのだが、
彼女はいつもそのままためらって視線を落としてしまう。
天野が口を開く代わりに、鳴り止んだはずのチャイムがコロンと一つ、聞こえたような気がした。
胸の内にいったい何をためているのだろうと思うが、
なにしろ天野とは話すようになってまだひと月だ。
いずれは教えてくれるだろうと気持ちを区切って、恭子は話題を変えた。

「ねぇ、今日は美汐の誕生日でしょう。どこかでお祝いしようよ」

「・・・ごめんなさい、先に約束してしまったの」

「そっか、残念。あ、もしかして、約束ってあの先輩と?」

天野には、懇意にしている三年の先輩がいた。
懇意、とはなかなか微妙な表現であるが、
友人とも恋人とも受け取れるこの言い回しは
天野の受け売りである。

「はい」

「もぅ、女の友情は男の前ではもろいものねー」

そういうのではないよ、
と否定する天野をしばらくからかいながら、
この自分にとってまだ難しいところの多い天野に
理解者らしい人物がいることを、恭子は安堵していた。
あの真白い街で出会った日の、
天野の淋しい眼を学校で見ることはないけれども・・・

「・・・変かな、」

「え、」

「私、どこかおかしなところがあるかな」

人のことは言えない。
恭子も考えごとをする内に、うわの空になっていたらしい。

「ごめん、ごめん。
 うん、大丈夫、どこもおかしくないよ。
 髪も、服も、って制服だけど、着こなしバッチリ、
 顔も、ふむ、美人さんだ。
 雰囲気は・・・ちょっと独創的だけど、
 変じゃあないよ。
 だから、がんばってきなね。それっ、」

「はい」

迷いを含んだ返事だった。
天野が何を懸念しているのかは分からなかったから、
とりあえずありったけ励まして背中を叩いたけれど、
彼女の悩みについては、
今はまだ件の彼氏さん(と決めつけているが)に
任せるしかないだろう。

「雪、」

窓を見て天野がつぶやいた。
ちらちらと降り始めた雪、
天野は以前、光の欠片が降りてくるようだと言っていた。

けれども恭子は、そんな冷たい光ではなく、
春の陽光が天野にあたたかく降り注げば良いと
灰色の雲の向こうの空に、柄にもなく祈った。





→ 第三章. 水瀬 名雪




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