この小さな世界の頂上と谷間




世界の谷間で



俺は、舞の肩を借りて
屋上へ続く階段を昇っていた。

雨の日の階段は滑りやすい。
転んだ俺が、後ろの舞を巻き添えにしたけれど、
廊下に衝突したとき上になったのは舞のほうで
その舞は、とても重かった。

「・・・そんなことはない」

俺の上に乗ったままの舞が言う。

いいや、そうだよ。
舞の中心は、とても重いよ。
けしてだまされることのなかった舞は、
そのかわり、ほんとうのことしか知らなかっただろう。
だから、舞はどこまでも重くなる。
その真ん中の重力が、
光さえも、自分さえも吸い込んでしまう。

いつでも舞のそばには舞がいた。
重力に巻かれ、外は内に、内は外に、
裏返ってしまった舞と元の舞は
メビウスの輪で繋っていたのに、
どんな嘘に、この円環を壊すことができたのだろう。

前にも二人、
同じようにして、この階段を昇ったことがあった。
あのとき肩を借りていたのは舞だったけれど、
そんな傷ついた舞が、二度も空を飛んだのだ。
一度目は、いつもの踊り場から、
そして、二度目は屋上だ。

俺たちはこれまで
屋上になんて足を踏み入れたことがなかったのに?



「あの時、屋上の扉を開けたら、佐祐理がいたんだ。
 そこは高い場所だった。
 そこは知らない屋上で、
 まぶしい光の景色の中に、
 佐祐理が微笑っていた。
 私は、
 あんなに高い場所は知らなかった」


「佐祐理は、こんなところに来ちゃだめだ、
 と言った。
 そのときも、やっぱり微笑っていた。
 だから私は思いきって飛び降りた」


「けれども、ほんとうは、
 そのとき、佐祐理は泣いていたんだ・・・」




なぁ、舞、
今度いつか、ゆっくりでいいから、
佐祐理さんの手を引いて
夜の川を歩こう。
深い谷間を抜け、
大きな岩陰で三人、肩を寄せあって
ぐっすりと眠ろう。
そしてまたいつかは、
佐祐理さんに手を引かれて、
明るい屋上への扉を開こう。

一歩昇れば天に届き、
一歩降りれば地に落ちる。
俺たちはこれから、
その両方を知る必要がある。


それが「がんばってる最中」ということだろう?




fin.




→ 後書き




「この小さな世界の頂上と谷間」の始まりへ

わっふるwonderland のIndexへ


★mail to WebMaster★
夏町 銅貨