いつのまにか過ぎ去った桜の季節へ


Epilogue.



それからもう、咲哉の姿を見ることはなかった。

しばらく経ってから、僕は麻美と一緒に、咲哉とはじめて出会った板塀の屋敷を訪ねた。屋敷の主は一人暮らしのお婆さんで、突然なお願いにもかかわらず、快く庭へ入れてくれた。

庭の一番奥に、あの梅の樹があった。それはもうたいした老木で、お婆さんによると、花をつけるのは今年で最後だろうという話だった。

花もつけない桜並木に通っていた僕のことを、老木はいつも見ていたのかもしれない。

樹の前で二人きりになると、麻美は決意を込めた声でこう言った。

「私、先輩のことが好きです」

「・・・あれっ、まだ言ってなかったんだっけ」

「もう、先輩。そうですよ」

「ゴメン、」

「・・・」

「・・・僕も麻美のことが好きだ。だけど、改めて友達から始めるんじゃ、駄目だろうか。このままじゃ僕自身のことが許せないっていう、非道いわがままなんだけれど、」

僕は懺悔を込めて、頭を下げた。

「う~ん、友達ですか・・・いいですよ。じゃあ、今よりもっと仲良しになるってことで、手を打ちましょう」

そう言って抱きついてきた麻美を受け止めた僕の前に、はらり、と梅の花びらが一枚舞った。

梅の季節はもうお終いだった。
そして、言えなかった言葉たちが、今度は桜の花に変わってゆく。

写真は色褪せてしまうけれど、時に流されない想いがある。
絶え間なく降り積もる思い出に、
正面から立ち向かってゆく強さが必要だった。

麻由のこと、『麻由』のこと、咲哉のこと、
そして、これからの麻美のこと。



◆

・・・忙しい毎日の生活の中、
もう今ではいつも、
いつのまにか過ぎ去ってしまうような桜の季節に、
役目を果たした無数の花弁が、
風に乗って空高く舞う様を、
僕らはふと、足を止めて眺めることがある。

「あの花びら、どこまで飛んでゆくんだろう」

高台から飛び立った桜は、遠い国の人々にまで届きそうで。

「そう、それでまた、誰かの新しい言葉になるんですよ、きっと」



Where have all the Flowers gone?
(終)


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