|
1999年の空の重い夏の朝に
始めに、家族と顔を合わせることができなくなった。
朝五時には家を出て、
ぬるい空気に息を詰め、
無人の校舎に吸い込まれるよう足を進める。
手をつけば冷やりとする壁の階段を昇りつめ、
軋む扉を押した向こうに広がる場所は、屋上。
少し湿ったコンクリートに身を投げ出して
明け方の浅い空が視界を覆うと、
それは、この学校の中に居て
学校の見えなくなる唯一の瞬間。
日常の中に居て、
日常を見なくて済む瞬間だった。
かけがえのない日常が
あまりに壊れやすいものと知ったから、
僕は見ていられなくなって、目を逸らしている。
そんな朝が三日ほど続いた頃から、
僕の隣りには瑠璃子さんが居た。
僕がこの時間、この屋上に居ることを、
話したことなんてなかったけれど。
空を見つめたまま手を伸ばすと、
瑠璃子さんの手に触れた。
ぎこちなく探り返してくるその指が、彼女の自然で、
今はもう、それだけが僕の安らぎだった。
そして僕は・・・
|