この小さな世界の頂上と谷間




世界の狭間で



昼休みは、
校舎の階段を昇りつめたところ、
屋上へ続く扉の前の踊り場が
俺たちの教室だった。

机を寄せ合う代わりに
厚手のビニールシートを敷いて
弁当箱をつつく中、
冬の寒さに扉は閉ざされ
唯一、階下にある窓からの光は弱く
薄暗かったこの場所に、
佐祐理さんの笑顔がまぶしい。

「屋上のほうは人気がないんですよ。
 この学校にはきれいな中庭がありますから、
 みんなそっちへ行っちゃうんです。
 ですから、舞と佐祐理は
 ずっとこの場所にいました」

いつものように明るいままでそう言ったのは、
俺の問いに答えてのことだ。

今は誰も通らないこの場所だけれど、
春から短い夏をはさんで秋までの間
昼ご飯を一緒する学生たちで
屋上のにぎわった頃には
二人はいったいどこにいたのだろう?
何気ないつもりだったその問いを
胸の中で繰り返してみる。

舞の方に目をやると、
俺たちの話を聞いているのかいないのか
いつものように色気なく
黙々と箸を口に運んでいる。
そう、俺が来るようになるこの冬までの
今よりもっと騒々しさとは無縁の昼食時には、
つまり、
二人はいつだってこの場所にいたのだ。

けして屋上に踏み入ることなく
階段を下りてみることもなく、
この狭間のような場所こそが
いうならば洞窟の小口だったのだろう、と、
死の恐れをもって手を繋ぎ
深い地の底を欲した佐祐理さんと
出口の光を求めた舞の、
この雪の町で春の訪れより早く卒業する二人の、
そんな冒険に満ちた三年間を
俺は尊く思った。





→ 世界の頂上へ




「この小さな世界の頂上と谷間」の始まりへ

わっふるwonderland のIndexへ


★mail to WebMaster★
夏町 銅貨